正午なりの時々日記

休眠中ですが、時々ささやきます。

氷の復刊版

アンナ・カヴァン作"氷"の復刊版を読みました。訳者である山田和子さんがあとがきに書かれるに、「改訂ではなく、"ほとんど改訳"に等しいもの」とのこと。そこで、改めて以前の文庫版と比べてみたら、確かにかつての翻訳とは印象を異にします。改訳版では、言葉がかなり切り詰められていて、単語の一つ一つがより一層厳選された感じがします(とっても不遜な言い方ですみません)。余計な感情を排したクールな描写は、まさに極北の作品に相応しい印象。もともと、アンナ・カヴァンの文体って、特に奇を衒うでもなく、冷静かつシンプルに淡々と筆致を進めるタイプだと思っていまして(そのため、原著でも割と読みやすい)、その分、訳出する際には苦労が伴うことだと察します。この復刊を契機に、アンナ作品の翻訳状況がもっと改善してほしいですね。個人的には「氷」と対を為す"Eagle's Nest"の刊行を強く希望します。
ところで、「氷」の最終章における状況と情感は、ある新青年作家の筆による、同じく題目に「氷」を冠した作品とあまりに似ています。終末感と絶望感の中、透明感溢れる光がかすかに見え隠れする読後感まで一緒。偶然の一致とはいえ、すごく不思議なことだと思います。